……? …
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


      



何と言っても手際のよすぎた仕儀であり、
しかも頭数でも多勢に無勢。
白亜の姿も麗しい、淑やかな少女らが集う学び舎の足元で、
そこへは不似合いもはなはだしい、
少々乱暴な格闘が始まったのも唐突なことだったが、

 「哈っ!」

邪魔だと見なされた自分へと、攻撃を仕掛けて来た二人ほどは、
振りかぶられた棍棒や木刀もどき、逆に掴み止めての ぐいと捻り上げ、
素手のままの五郎兵衛が、あっと言う間に薙ぎ倒して伸してしまったものの。

 「待てっ!」

まだいた顔触れ、あと2人ほどが、
こちらのそんな展開には見向きもせぬまま、
七郎次へと左右から掴み掛かると、ひょいと軽々 足元浮かせての抱え上げ、
そちらもそれこそ あっと言う間に車へと撤収してしまい。
しかも、すぐさま出るぞという打ち合わせもしてあったものか、
アイドリングしていたのみならず、仕儀を見やっての早々と、
何とも絶妙な呼吸で発車してしまったボックスカーであり。
当然のことながら、待てとそちらを追いかかった五郎兵衛だったのへは、
一番至近だった窓から腕が突き出され、
何やら小さめのスプレーが向けられていて、

 「…っ。」

素早い段取りではあれ、眼前へ延ばされた腕くらい、
ばっさり払い退けることで身を避けての、
尚も追うことも出来たところだったけれど、

 「どうしましたか?」

通用門に詰めていたガードマンさんとは別、
搬入物の受け渡しや校舎への出入りを見守るための、
こちらでの受付担当だったのだろう、
シスター・アンジェラが駆けつけたのが、何とも間が悪くって。
何が起こっていたかも知らぬまま、
通用口から出て来かかっていたシスターに下手に気づいた五郎兵衛だったものだから。
彼女を庇うという方向へと身を躱したことで、ますます間を空けられてしまい、

 「………ちっ!」

発進してゆく車を追うように身を翻したが、もはや後の祭りというのは明白。
加速に乗ってしまわれては人の足では追いつけぬ。
通用口にいるガードマンへ門扉の封鎖を告げるにも、
部外者の自分がどうやればという手段が判らぬ以上、何ともし難く。
せめてもと懐ろから取り出した携帯電話で、
音もなく舞い散る赤い楓の中、
追いすがり損ねたからそう見えるのか、
悠然と逃げてゆくボックスカーの姿を何枚か写真に撮ってから、

 「………勘兵衛殿か? 今、手隙か?
  シチさんが攫われてしもうたのでな、早急に話がある。」

滑舌よくそうと告げたことで、庇われたシスターもまたハッとしたようだったが、
どこぞへかのご注進にと駆け出されぬよう、その手を押さえると、
そのまま相手の返答を待った彼の耳へ、

 【 判った。平八に首を突っ込まさせるワケにはいかぬ。今どこだ?】

こちらの手短な言いようへ、果たして何割 承知しての言なのか。
そこはさすがにこういう事態への専門家で、
“一刻も早く”を優先せねばならぬ事情だと飲み込めたらしい。
慌ててもない冷静な口調だが、感情が乗ってはないということは、
それだけ感覚を鋭敏に尖らせている島田警部補でもあるのだろと忍ばれて。
そんな相手へ向けて、

 「女学園の通用口前だ。
  逃走した賊らのボックスカーの写真を撮ったのでメールで送る。よしか。」

 【 ああ。】

 「それと、一味の二人ほどを足止めしてあるが、
  人事不省なので話が聞けぬ。
  とりあえず、身柄拘束の人手を頼む。」

 【 判った。】

てきぱきとしたやり取りにて、
最低限の会話をこなしたそのすぐ後に、
今撮影したばかりの不審者の姿をメールへ添付して転送する。
ナンバープレートや車種が確認出来よう角度で
きっちりと収められたと思いはするが、

 「………。」

いくら一斉に掛かられた仕儀だったとはいえ、
まんまと七郎次を奪われてしまった不手際が何とも歯痒いと、
苦々しいお顔になった五郎兵衛殿であったのだった。




      ◇◇◇



繊細そうで美麗な風貌をしていながら、
実は そりゃあ気丈で、心根も凛々しくて。
しかもしかも、
まだ十代という経験値も低かろう幼さでありながら、
少なからず悪党と判っている相手へでも、
怯むことなく堂々と、特殊警棒を振り上げることが出来るほど、
度胸も据わった女傑でもあって。
そういったもろもろ、
前世では文字通りの命懸けて戦っていた
雄々しき もののふだった記憶や感覚が、
今現在の彼女の気概を支えていたからこそ
こなせた代物でもあったろうが、

  ―― そういえば、これまでの彼女の活躍は、
     そのほとんどが
     誰かのための奮闘ばかりではなかったか。



秋めいて来た陽射しのつんと冴える中、
学園内へと乗りつけたセダンは、
日頃も警視総監を乗せて出入りしていた車両だったため、
ガードマンさんも特に不審に思うこともなく
すんなりと敷地内へ通してくださったようで。
騒ぎを広める訳には行かなんだからか、
騒動があったらしき通用口にそのまま佇んでいた五郎兵衛を見やり、
車寄せへと進入したセダンが軽やかに停車する。
手早く降り立ったスーツ姿の壮年は、
後部座席からばらばらっと降り立った連れの若いのへ会釈を送り、
セメントの打ちっぱなしというポーチへ倒れ込んでいる作業着姿の男二人、
確保せよとの指図らしき目配せを送る。
そんな彼らの到着を迎えつつ、

 「…すまなんだ。みすみすシチさんを連れ去られてしもうた。」

屈強な肩を落として、何とも情けないと眉を曇らせる五郎兵衛であり。
そうでありながら乱暴な報告になったことへだろう、

 「手早く速やかに、と思うたのでな。」

やはり手短な言いようを重ねると、

 「ああ。」

警視庁からだというなら随分と飛ばしたものか、
早急に駆けつけおおせた勘兵衛の声は幾分か低かったが、
それは腹立たしさからの素っ気なさではなく。
冴えた横顔が物語る、
これからどうすべきかだけへ視野が向いていればこその、
研ぎ澄まされた集中からのことだろうと思われた。
物理的に手が届かぬ相手を追うための手管をと素早く切り替えての、
それに長けている筋の顔触れを想起しつつ、
まずはと勘兵衛へ連絡して来た五郎兵衛であろうこと。
その一連の思考が手に取るように判ったらしき、
敏腕警部補、島田勘兵衛だったのもおさすがならば、

 「…平八には。」
 「まだ取っ掛かりしか話してはおらぬ。」

何せここは彼女らのホームグラウンドなだけに。
先程の会話にて七郎次が何か言いかけていたように
通用口には彼女もやって来る予定だったらしい久蔵と、それから。
少し上の渡り廊下からこの場を見下ろしていて、
五郎兵衛の到着に気づいたそのまま、
手が空いたのをいいことに、駆け降りて来た平八が居合わせていても、
此処から帰れの去れのとは言い難く。
大おとな二人をじいと見やって、

 さあさあ顔触れも揃ったんだから、
 七郎次が居なくなってる事情を聞かせろと、

無言の催促を向けておいで。
それだけのみならず、

 「判ったから、人事不省の人質をつつくのはやめなさい。」

五郎兵衛が召し捕った一味の二人ほど。
まだ意識が戻らぬのを、
勘兵衛と同行して来た刑事だろ二人が引き取りたがっているのだが、
それぞれにキュート&クールビューティな女子高生が二人して、
うりうりと先を尖らせた拳の先にて つつき倒していたがため、
何とはなく手を出しそびれておいでの模様で。

 「あの〜〜〜。」
 「いいから連行しろ。」

後で訊いたのだが、
彼らは勘兵衛から“内密の捜査”という名目で連れられて来たらしく、
ここに通う女子高生が無理から連れ去られたようだ…という、
それは手短かな概要のみを聞かされただけ。
それなりに立場のあるご一家のご令嬢、
よって、表沙汰にされての のちに記録が残るのは困るとの思し召しなので等々、
意味深な含みのあるよな言いようを吹き込まれた訳でなし。
それでもこうして追従して来た彼らだったのは、
組織の人間ではあれ、上への盲従を善しとはしない、
そんな姿勢を常にその背中で示しておいでの、
自分たちのチーフである勘兵衛へ、厚い信頼を寄せていればこそ。

 『事件として成立したことへしか発動させられぬ色々もあろうから。』

真っ先に勘兵衛へと連絡を取った五郎兵衛だったのもまた、
彼が警察関係者だったからじゃあない。
確かに、こういう事態への対処に有効な手管を様々に持つ身の彼だが、
それらはあくまでも“犯罪行為”へ用いること。
そうと立件するか否かの判断は、長のつく役職や立場の人の担当であり。
必要な手順として、お伺いを立てた上で関係書面を回していては、
解決の糸口はどんどんと遠ざかる一方なので。
そこいらをどう対す?というお伺いも兼ねつつ、

  ―― これが通じぬならば、
     こっちで速やかに 且つ勝手に話を運ぶぞよ

という、訊きようをした五郎兵衛だったのであり。

 「とりあえず、こちらへ。」

勘兵衛が乗って来たセダンは、容疑者を移送する彼らに託し、
さりとて、明けっ広げの中で話していていいことでもなかろと、
五郎兵衛の乗って来たボックスカーを個室とし、
それへと乗り込んだ一同であり。

 「シスター・アンジェラという先生も居合わせたのだが、
  しばらくは内密にと言い含めて戻っていただいた。」
 「さようか。」

それは手回しのいいことだと大きく頷いた勘兵衛へ、
彼もまた状況はほとんど判らないというのに、

 「…………。」

ずいと身を乗り出して来たのが、
後部座席で隣り合わせとなった三木さんチのご令嬢。
七郎次もそうだが、こちらの二人ともセーラー服姿だったのは、
撤収作業のほうは終わっていたからで。
制服の上へカーディガンを羽織った薄い肩をこちらへ傾け、
さあ話せと詰め寄るには相手を間違ってないかと思いきや、

 「手は打ったか?」

壮年警部補殿の精悍なお顔立ちは、
見ようによっては取っ付きにくい恐持て…でもあろうに。
恐るるに足らぬとの果敢にも、
紅色の双眸を尖らせ、何とも端的なお言いようをした彼女であり。
それへとの補足を兼ねてか、

 「そうそう。
  手続きが要るとかいうのなら、私が手掛けてもいいんですよ?」

助手席に陣取った林田博士の秘蔵っ子、
コンピュータやネット関係への采配・手腕は、
どんなプログラムエンジニアにも負けぬほど。
なので…と続けるのはいささか安直かもしれないが、
それでも、そう簡単には侵入出来ぬだろう堅いプロテクトも何のその、
堅牢なセキュリティをくぐり抜け、
様々なプログラムやデータへ少々強引ながら潜入しては、
これまでの騒動への参考にして来た凄腕さんなだけに、
それが正道とはいえ手順を踏まねば手をつけられない立場の勘兵衛に代わり、
自分が、該当車探索の為、
ネットのあちこちへもぐり込もうかと言っている彼女であり。
だが、

 「いや、それには及ばぬ。」

型破りで実務主義な勘兵衛でも、
さすがにそうそう、掟破りをしでかすわけにも行かぬ。
だがだが、一刻を争う事態には違いなく、
また、だからと言って まだ女子高生の彼女へ危ない橋を渡らせてどうするかと、
そちらの分別もさすがに働いてのこと、

 「後で辻褄を合わせればいいだけのこととし、
  既に征樹に探査を始めさせている。」

これまでにも度々触れて来たように、
警察には“Nシステム”という、
幹線道路に設置された監視カメラにより、
通過した車を追跡出来る探査網がある。
ナンバープレートや車種で対象を絞り込めての、
追い始めるのが早ければそれだけ、
どのルートを走行中か、もしかしたら追いすがれる代物なので、
だからこそ、一刻も早く手をつけねば…と皆して急いていたのであり。

 「そうですか、佐伯さんが…。」

彼もまた、ネット関係の捜査には明るいお人だという実績は、
平八にも通じており。
結構な手腕を持つ人なだけに、
それなら安心かと胸を撫で下ろしたひなげしさんだったけれど、

 「それはそれとして。」

征樹殿からの連絡待ちかと落ち着きかかった面々だったものが、
五郎兵衛の不意な声にて揺り起こされて。

 「気になることが二つあっての。」
 「二つ?」

うむと頷いた五郎兵衛、そのまま車外を見回して、

 「連中の手際のよさが、あまりに徹底していたのがまずは1つ目。」

この学園は確かに有名な学校だが、
多感でか弱い女子高生の花園なだけに
そうそう明け透けに内部を公開してはない。
とはいえ、調べようはあろうから、
通用口の位置やら、そこへ至る侵入経路くらいなら前以て判らなくもなかろうが、

 「先程の時間帯、
  シチさんがあの場にいたことをどうして知っていたのだろうか。」

 「あ…。」
 「……。」

五郎兵衛殿が気になったのは、
彼らが乗り付けた車がすぐさま発進という構えを取ったこと。
五郎兵衛という多少は手ごわい伏兵がいたのは、
彼らには計算外のハプニングだったのだろに、
それへ少しも動じてはなかったドライバーだということであり。
仲間の二人ほどを打ちすえられ、置き去りにせざるを得なかったことさえ、
計算の内だったかのような見切りっぷりであり。

 「攫ってゆく対象のシチさんが居ることが前提で、尚且つ、
  秒刻みでの急襲で対処しおおせただけの正確な情報、
  どうやって得た彼らだったのかと思うてな。」

状況がどう転ぼうが関係ないぞという、
きっぱりした段取りに沿うた運びだったようにしか見えなんだと。
不審を口にした五郎兵衛であり、

 「それと、もう1つは、シチさん自身の態度でな。」
 「シチさんの?」
 「???」

これまでにも大人たちをさんざんハラハラさせたほど、
首を突っ込む必要もないはずな修羅場を、
幾つも幾つも掻いくぐって来た彼女であり。
先にも触れたが、
たとえおっかない筋の男衆が相手であれ、
自慢の太刀筋を繰り出して、したたかに打ちすえるだけの度胸があったはず。
そうまで肝も座っておいでの、腕に覚えありな七郎次だったはずで。
それでも…そこはか弱い女子高生の身、
今回はさすがに、相手の手際の迅速さに飲まれてしまい、
か弱き少女にはそれで当たり前の反応、
身動きも凍ってのこと、抵抗がかなわなかった…というならまだ判るが。

 「果たしてそうだろか…と、思うた感触があっての。」
 「感触?」

何を言い出す彼だろかと、キョトンとしたのが平八ならば、
途中から…微妙に視線が落ち着かなくなっていたのが久蔵で。

 「…どうしましたか? 久蔵殿。」

心配し過ぎで気分が悪くなったのかと、
彼女をこそ案じたらしい平八からの声かけへ、

 「〜〜〜〜〜。」

違うのとかぶりを振った金髪寡黙なお嬢様。
だがだが、何かしら思い詰めたようなお顔になると、
おもむろに口を開いて告げたのが、

 「シチは、俺の代わりに連れてかれたのかも。」

そんな爆弾発言だったのだった。






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  *ちょっぴり謎めきの要素のあるようです。
   意外なお人も出てくるかもですが、もちょっとお待ちを。 


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